Loading...

咀嚼を取り戻すことをあきらめない

普通の食事(常食)をしっかり咀嚼して食べることをやめない。
特に高齢期には咀嚼をやめると心身に大きな影響が出て、要介護や認知症、寝たきり、誤嚥性肺炎で口から食べることを諦めなければならない状態になります。
しかし、そうなっても、ふたたび普通の食事(常食)を咀嚼して食べることを取り戻せばその状態から回復し、もとの健康な生活を取り戻すことができます。
「噛める入れ歯」にする義歯調整がそのことを教えてくれています。
大事なことは普通の食事(常食)を咀嚼して食べることなのです。

 介護度3以上、介護度4~5が大半を占める特別養護老人ホームなどの高齢者介護施設では普通の食事(常食)から外れて刻み食、ペースト食、流動食、そして胃ろうなどの経管栄養の人が大半を締めます。竹内孝仁先生(一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会 理事長 前国際医療福祉大学大学院教授)は要介護高齢者の自立した日常生活を取り戻す自立支援介護を提唱、指導をしておられます。その方法の一つに「食事の常食化」があります。「噛める入れ歯」にする義歯調整が教えてくれる咀嚼の重要性を竹内孝仁先生は以前から説いておられるのです。
 竹内孝仁先生はこの河原英雄先生の「噛めない入れ歯」を「噛める入れ歯」にする義歯調整で寝たきりの人が特別なリハビリもなく歩きだす、認知症が大きく改善する、そんな多くの例を見て大きな関心を寄せられました。その多くの症例を研究され、自らの今までの研究から「なぜ義歯を調整すると寝たきりが歩けるのか」などの講演でその成果を世に発表されています。
 内容の一部をご紹介します。詳しくは竹内孝仁先生講演「なぜ寝たきりが歩けるのか」(pdf)をお読みください。

①義歯調整による咀嚼、嚥下の活発化で覚醒水準をあげる
 義歯の調整により咀嚼、嚥下の活発化でそれに関与する筋肉が活発に動き始める。一般的には表情筋と呼ばれる機能面で咀嚼筋と言った方がいい、一つ一つは小さいけれどいろんなタイプの筋肉が張り巡らされている。舌もまたいろんな方向筋繊維があって複雑な様相を帯びている。さらにその一番外側にある筋肉が咀嚼と嚥下機能を中心とした口腔機能のために参加してくる。
 こよりを口にくわえて口の中でこよりをゆわく。こういう考えられないような細かなことを我々の口ができる。筋肉の特徴を神経学的に見ると一本あたりの神経が支配している筋繊維のレシオが小さい、つまり非常に多くの神経が筋肉を支配し、非常に細かな動きができる。指の筋肉と非常に構造が似ているということが分かってきて、巧緻性が非常に保証されている。さらに食事する時に座って食べている。顔面の筋肉以外に食事をするという時には脊柱の筋肉から腰周辺の筋肉が動員されることが分かっています。
 神経によって活動を命じられて働く筋肉の活動電位が今度は逆に脳に送り込まれていく。その一番の中継ポイントが脳幹だという。古典的なマグーン先生の非常に有名な説です。顔面の筋肉が入れ歯を調整して常食を食べることによって咀嚼を繰り返しやる。私の成人を使った調査では1日3度の食事だけで2500回の咀嚼を繰り返している。そんなに数多い運動を繰り返す間にそこに参加した筋肉の活動電位がみんな脳に送り込まれていく。
 義歯の調整による咀嚼、嚥下の正常化で咀嚼、嚥下に関与する筋肉活動の広がりと活動量の拡大が起こる。多数の筋肉が一斉に働き始めるとそこで発生した活動電位は脳幹網様体賦活系に送り込まれ、脳幹網様体の活性化を起こす。活発な電気的な活動も起こってくる。これはもうすでに古い時代にわかっていることですが脳幹網様体の賦活系というのは覚醒水準を向上させる。要するに脳幹網様体が活発になっていくと目が覚めていくということです。
 目で見る、耳で聞く、その他に歯で噛むとか、体中のその活動が大脳の皮質の所を刺激し、大脳全体の覚醒水準が上がってくる。覚醒水準が上がってくると顔つきがはっきりしてくる。表情がはっきりしてくるのはまさにその脳幹網様体の活性化による作用です。

②義歯調整で認知症が治る理由
 脳幹網様体が賦活してくるとそこで脳の活動水準が上がってくる。すると能動性が上がってきて、これが感情の動きに影響したり、その活動を 起こしたり、ぼんやりして受け身の状態ではなくて何かに関心をもって見極めようとしたり、その手を出そうとする能動的活動性は当然その認知力を改善するということになっていきます。
 認知とは多くの研究者が指摘する非常に能動的な行為です。人は見ようとするものしか見えず、聞こうとするものしか聞こえない。ところが、義歯調整で普通の食事(常食)を食べるようになると、大脳の活性化から能動的態度を活性化して認知行為を活性化する。今まで何でもいいわと思ってぼーっとしていた人が興味あるものを見ようとしたり、聞こうとする。それが認知障害のその症状を消失軽減する。だから入れ歯を治すと認知症が軽くなった、認知症らしいその症状は消えていったということが起きる。
 これはまさに咀嚼筋からスタートして網様体賦活系を経由して大脳全体の活動が活発化して、結果として個人に能動的な態度あるいは行動をもたらした結果であると考えることができます。

③高齢者の口腔機能を健全化する歯科は高齢社会の介護問題の救世主
 高齢者の口腔機能を義歯も含めてしっかり健全化するという、歯科にとって基本の診療により、リハビリもしない人が歩いたり、認知症の人が普通の人に戻ったりという救世主的な結果がもたらされる。このことを社会に示し、「歳をとったら歯医者に行こう」ということが合言葉になるぐらいに広がることを期待しています。

④常食の必要とする十分な咀嚼が安全な嚥下を引き出す
 全国の特別養護老人ホームに入っている高齢者6000名についての咀嚼・摂食にまつわる調査をしました。特別養護老人ホームでは常食からおかゆ、ペースト食、ミキサー食と調査しやすい豊富な食形態がまんべんなく数多く使われています。しかも全体で6000名の調査ができる。ムセという現象は潜在的な誤嚥。気管に入るからムセで飛ばすということが起こる。このムセデータを採った結果、食形態が柔らかくなり流動化するに従ってムセがひどくなり、常食は全くムセることがない。それはなぜかと言うと常食はやむを得ず飲み込む前に咀嚼する、だから嚥下そのものは咀嚼の結果であって、それ以外のものではないのだと。嚥下はいろんな筋肉が参加している協同運動なんだということが波及的に分かってきて、結論から言えばやっぱり十分に咀嚼することは安全な嚥下を引き出す。
 私はリハビリの専門医の頃に今の摂食嚥下リハビリテーション学会と同じような検査をやって、誤嚥、ムセる人に食べるなと言っていましたね。私は自分の医者人生の中であれだけは間違っている。痛恨の思いを今噛み締めているところです。もうちょっと咀嚼というものに我々は真剣に向き合うべきだな、と感じます。常食ほどこんなに安全な食物摂取法はないのだということを自信を持って皆さま方にお伝えできればと思います。しかもその治療を握っているのは歯科学会、歯科医なんだということを自信を持って、確信をしていただきたいと思います。

⑤咀嚼から遠ざけられた人も常食こそが咀嚼・嚥下へ導く
 私は常食に戻すのは用心深くそして科学的にやるべきだといつも思っています。
 ペースト食とかミキサー食の人を全員常食に戻すという運動を特別養護老人ホームでやり、150~160施設が100%常食に変わっていったんですね。その時にそれ以前の形態でミキサー食と呼んでいる流動あるいはペーストの人のケアの時の注意としては、半年ぐらい流動食を続けていた人の嚥下の特徴は丸呑みなんです。だからそういう人にハンバーグをポーンとやるとハンバーグをあたかも流動食であるかの如くごっくんと飲んじゃう。それで窒息が起こる。だから介護職たちに指導するのは噛ませなさい、という。口に普通食を入れるんだけど「噛みなさい。噛むんですよ。噛みなさい。はい1、2、3、4」と言って一口の食べ物に対して30回噛ませる。それで3~4日やってると本人も噛むという習慣ができてきますからそうなったらむせもなく常食を食べることができる。それをやらないと普通食を全部丸呑みに、流動食の時の嚥下パターンのまま摂ろうとします。これは非常に危険だということです。

⑥誤嚥性肺炎を恐れて経口摂取をやめる間違い
 もう一つ誤嚥性肺炎をどう理解するかということです。誤嚥というその言葉の意味について、本来食べ物や水分が食道から胃に落ちていくべきものが気道に入るのを誤嚥という。誤嚥性肺炎というのはあたかも食道に入るべきものが気道に入ったことによって結果的に肺炎を起こしてるんだという誤った解釈が多いですね。そういうものを誤嚥性肺炎って言うんじゃない。実は夜間に解剖学的な位置で、あるいは老化による反射の衰えから不顕性の気道内唾液流入が起こる。それが気管から肺にかけての免疫系の力が落ちた時に起きて最終的には炎症状態を引き起こす。だから医科の臨床をやっていて最終的に誤嚥性肺炎という診断がついたとしてもこの誤嚥性肺炎がいつ起こったか分からない。数ヶ月前にすでに肺炎が起きているかも知れない。細菌の多い唾液が体力の脆弱とか免疫力の衰えで発症していたのかもしれない。あるいは夜間の不顕性誤嚥がないにしても普段生産される痰が防御力が落ちたことで肺炎状態まで行ったのかもしれない。誤嚥性肺炎という言葉の誤解が非常に多いですね。それを我々が言うべきなんです。飲み込みが悪くて肺炎になったのではないですよ、ということを言わないといけないですね。

お問い合わせ

セミナー・講演会に関するお問い合わせ
≪前歯でも噛める入れ歯研究会≫

mae.kame.hero@gmail.com

セミナーや講演会への問い合わせ、活動に参加したい医療関係者の方は
上記メールへ直接お問い合わせください。

本サイトに関するお問い合わせ
≪福祉QCドットコム/COMTEC≫

jiritu@294qc.com

本サイトへの問い合わせは
上記メールへ直接お問い合わせください。

前歯でも噛める入れ歯研究会(まえかめ)

「前歯でも噛める入れ歯研究会(まえかめ)」は、河原英雄歯科医師が導き出した義歯調整法の普及と研鑽のために立ち上げられた会で、河原医師から義歯調整法を学び、実践している歯科医師や歯科技工士たちによって運営されています。2018年8月、本会において「自立支援歯科学」を立ち上げました。
当研究会について自立支援歯科

当サイトの運営

歯科と介護を支援
「福祉QCドットコム/COMTEC」
〒731-5114 広島市佐伯区美鈴が丘西3-3-10
代表 岡田愛家(おかだ・なるや)